Social Leader Vol.4「地域福祉保健とアウトリーチ」/保健師 門脇 裕美子様
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今回、宮城県の東松島市で保健師さんとして奮闘されている
門脇さんの活動を紹介させていただきます。
東松島市には3年前の震災でも甚大な被害があった地域です。
当時、精神保健と精神医療が連携して地域対応している
東松島市(東松島モデル)はすごいという話を偶然聞いて、
いつかお話を伺いたいと思っておりました。
門脇さんからは、非常に大変な現状と伺っていたのですが、
無理を言って、今回、受けていただきました。
そのため、今回はいつものインタビューではなく、
私が門脇さんのご発表を伺った
「第17回日本精神保健・予防学会 理念共有セミナー」
http://jseip2013.saitec.biz/
でのご発表スライドをお借りして、
私なりの見解をご紹介させていただきますことを、
ご了承ください。
門脇さんは、2000年東松島市(旧矢本町)に入庁されました。
12年間の保健師業務のうち、7年が「精神保健分野」で、
その精神保健業務担当の間に、
宮城県北部連続地震(2003年)、東日本大震災(2011年)と
2度の震災を経験され、
大震災後は、「児童福祉分野」へ異動されました。
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「精神保健分野」「児童福祉分野」と2分野にまたがれども、
お話の本質には共通点があり、
門脇さんの取り組みから社会が得られるヒントとして、
「①アウトリーチ」
「②多様性(ダイバーシティ)への周囲の理解」
「③多職種での取り組み(もっと言えば、地域社会を巻き込んだ多面的な接点)」が
理解の鍵なのではないかと感じました。
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東松島市は、被災地の中でも甚大な被害を受けた地域で、
こうした非常事態の中、精神保健活動において、
「東松島モデル」が特徴的なのは、
震災支援で来られた精神科医と保健師、
そして、ケースワーカー(社会福祉士)とも
連携したチームによる訪問支援です。
「アウトリーチ」とは、文字通り「(支援側から)手を伸ばすこと」です。
行政や病院が、その性質上「自ら申請があった対象」や
「自分で病院に来た患者さん」に対して応じるというスタンスとなります。
でも考えてみれば、社会環境や病気が「大変になっている人」というのは、
そもそもいろいろな意味で余裕がない人や
様々な内外に横たわる障壁も多いわけで、
自分から取りにいこうにも、
「社会サービスを受けること」自体のハードルがその人には高すぎて、
結果、苦境の中から抜け出せない方も多数いらっしゃると思います。
被災者でもある患者さんのもとに、薬を届けると共に、
チームでもって直接訪問の機会を増やしました。
精神領域において、また、こうした非常時において、
地域に医療者側から出向いてくれる(アウトリーチ)と
いうのはとても大きく、
「患者さんの生活環境に訪問することの大切さ」と
「早期介入の重要性」を門脇さんは痛感されました。
直接訪問した際の「なんか変だな?」の感覚がとても大事とのこと。
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事例として、避難所から「避難所の利用者で包丁を振りまわした人」が
いるという連絡を受けた時のお話を伺いました。
警察や入院措置をとる前にとにかく話を聞いてみようということで、
保健師の門脇さんと共に、精神科医、精神保健福祉士が避難所へ向かわれました。
どれだけの危険人物なのかと思って、
状況を当事者から確認すると、
当事者の方の気持ちもよく分かるものでした。
持ち物、家財、全部流された中、
一度はご本人も水に流されて命からがら逃げ込んだ出身校であった避難所から、
別の見知らぬ避難所に移される際、
恩師の方から、靴がわりにとスリッパを渡されました。
その方にとって、その小学校のスリッパは
「唯一の、かけがえのないもの」であったのですが、
その事情を知らない他の利用者の方から見れば、
ただの共用スリッパです。
誰かにそのスリッパを勝手に履かれてしまって、
孤独感の中で「唯一の自分の持ち物」まで盗まれたことに激高されました。
しかもそこで刃物を出したのはご本人ではなく、
その激高に驚いた弟さんの方が、
「お兄さんを制止すると共に、周りの方にも、
これ以上自分達に関わらないよう制止するために
果物ナイフを持ち出した」というのが真相でした。
家族や、付き合いのある近所であればまだ理解できることでも、
見知らぬ人との、さらに、お互いに余裕のない者同士での共同生活という
異常事態での出来事だけに、今、第三者の立場で冷静に聞けば、
その難しさがよく分かります。
訪問チームでそこでなさったことは、
そこの避難所からご兄弟を出すことでも、
何らかの薬を処方することでもなく、
精神科医から警察、保健師から避難所管理者へ
「このご兄弟が異常ではなく、事に至ってしまった経緯の説明」することでした。
そうしたところ、ご本人が自ら周囲の人達に
「怖がらせて申し訳なかった」と謝罪し、
周囲の人達もそれを受け入れたのでした。
その後はご兄弟の状況も落ち着き、
そればかりか、巡回に行く度に
「あそこにこういう人いるからこころのケアしてあげて」と、
保健師に支援が必要な人を教えてくるようになったのです。
そして、ご兄弟で避難所を退所された後、
仮設住宅に入られた際に、門脇さんが訪問したら、
例の果物ナイフでりんごを剥いてもらったそうです(笑)
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「児童福祉」に移られてからは、
震災後増加傾向にある児童虐待への対応を門脇さんは行います。
保健師さんの業務として、主に虐待、
DV(家庭内・近親者暴力)のケースワークが多く、
近隣の「しょっちゅう泣き声が聞こえる」や、
学校「痣を見つけた。お父さんに殴られたと言っている。」といった通報から、
通告介入、養育の改善に向けて支援に入られます。
こちらの事例紹介はどうしても現在進行形のお話であり、
具体的に取り上げることは控えますが、
門脇さんが仰る「児童福祉」の難しさとは、
①保護者の意に反する介入であること
②夫婦間のDV、経済問題、子どもの発達障害等、
多くの問題が複雑に絡んでいること
③(母子保健、医療、子育て支援、保育、教育、司法等)
子どもに関わる支援機関は多岐にわたること
そして、
④支援者も感情が揺さぶられやすいこと
でした。
特に④について、衝撃的なエピソード、受け入れがたい子育ての仕方、
自分自身の生育歴からくる反応等、
「必ず自分の親子関係が揺さぶられます、刺激されない人はいません」
というお言葉に、実際に経験されている方だからこその言葉として、
このお仕事の大変さがピンときました。
正直、自分自身で想像しても、
「①必ずしも相手から求められているわけではない」状況の中、
アウトリーチの強い気持ちで、②~③にプロとして必死に立ち向かおうとしても、
気持ちを入れた分の反動もあって、
④で素の自分自身に重さが降りかかってしまって、
崩れてしまいそうな恐怖を感じました。
「人の支援をする前に、一番大事なのは、チームを組む、
自分たち自身の感情を理解すること」という門脇さんのお言葉に、
その困難に立ち向かわれている方ならではの実感が伝わりました。
一件一件の案件が複雑で、繊細で、エネルギーが要求される中、
たくさんの部門間での調整が必要でもあり、
そこに震災で地域住民が抱える課題が増加して、
ますます、地域の子育て支援力は低下する難局にあるそうです。
私なんかがそうですが、「人に分かってもらえない」文句はよく言いますが、
「人の状況・感情・気持ちを理解する・共感する」のは、本当に大変。
さらには、「相手から求められてから分けてあげる」のではなく、
「自分から相手を求めるアウトリーチ志向」、
「自分自身の気持ちが揺さぶられて落ちないだけの強い心」・・・
結局、「勇気を出して心の窓を開けつつも、
自分の心を傷つけない冷静な心の強さ」が求められていると思います。
これらは、なにも職業としての取り組みだけではなく、
我々の日常での心構えとして、とても重要なことなのではないかと思い、
今回、取り上げさせていただきました。
門脇さん、貴重なご経験を紹介してくださり、本当にありがとうございました!
自分がどこまでできるか自信はないけれど、
それでも、GRなりの社会への「アウトリーチ」を心がけたいと改めて思いました。
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※最後に
震災からもうすぐ3年。たくさんの方が同様に感じられていると思うのですが、
気持ちはあっても、被害をうけた方々に対し、
今、具体的に何かをできるかと言われると、なかなか難しいところがあります。
悩んでいる方も多いと思いますし、零細企業であるGRにしても同様です。
ですからあまり格好いいことは言えませんが、一つだけお約束できるのは、
これからも、ずっと「何ができるか」考え続けるし、ささやかであっても、
具体的な活動を続けていくことは間違いないという確信があります。
それは自己満足かもしれないし、個人個人の方々に対して
なんの実感も得られない活動でしかないかもしれませんが、
我々に限らず、たくさんの方々が
同様に何かのお役にたちたいという気持ちでいることだけは、
ここに伝えさせてください。